以下、歯学博士 江上一郎先生の話。
「口臭は、『生理的口臭』と『病的口臭』に分類されます。
生理的口臭とは、日常生活において誰もが起こりうる口臭を指します。起床時、空腹時、緊張時、疲労時、加齢などの生理的な理由で、『だ液の分泌が低下すること』によって発生します。自浄作用があるだ液が減少すると、口の中で細菌が増殖します。その細菌が、舌や歯ぐきの粘膜、食べかすなどに含まれるタンパク質を分解するときに発するガスが口臭となります。特に、一日のうちで起床時は、口の中の細菌の数が最も多いことが分かっています。だ液1ミリリットルに含まれるその数は、ウンチ10グラムにいる細菌に相当します。私はまず、起床時に歯を磨くことを勧めています。その理由は、歯磨きをせずに朝食を食べるとウンチ10グラムに存在する細菌を一緒に食べていることになるからです」
ストレスと口臭も関係があると聞きますが、江上医師は次のように説明します。
「ストレスが強いときは、自律神経のバランスが崩れてだ液の分泌量が低下するため、口臭が強くなります。また、妊娠時や更年期、思春期などは、ホルモンバランスの変化から口臭が発生します」
食べ物にもよるのでしょうか。
「口の中に入れるものですから、もちろん、飲食物やし好品が原因となる口臭はあります。例えば、『ニンニクを食べたあとはにおう』と言うでしょう。ニンニクやニラ、ネギなどに含まれるにおい成分は、胃で消化されたあと血液にとりこまれて、肺を経由して口臭となって吐き出されるため、においます。それに、アルコールは分解される際ににおいを発します。
さらに、タバコの煙には、こげくさい特有のにおいを持つタールや、口腔内の血液の循環を妨げてだ液の分泌を抑制するニコチンが含まれるので、口臭を放つようになります」
病的口臭とはどのようなものでしょうか。
病的口臭とは、むし歯、歯周病、合わない詰め物や被せ物をしている、舌苔、悪性腫瘍などの口の中の病気や、副鼻腔炎、糖尿病など、耳鼻科や内科に関わる病気が原因で起こる不快臭を言います。
病的口臭の多くは口腔内に原因があります。むし歯などが原因で、歯に穴が開いたりすき間ができたりすると、食べかすがたまります。それが細菌によって分解されて口臭が発生します。詰め物や被せ物が合っていないときも同様です。
歯周病を放置すると歯ぐきに炎症が起こり、腫れたり膿んだりして、においが出ます。口腔内以外の部位に原因がある場合、例えば鼻炎、副鼻腔炎、咽喉頭炎や蓄膿症に代表される耳鼻科的疾患は膿のようなにおいを発します。糖尿病、肝臓や腎臓などにおこる内科的疾患では、血液を通して肺から吐き出される空気となって、さまざまなにおいが発せられます」
それぞれ、どのように対処すればいいのでしょうか。
「口の中がネバネバするとき、だ液が少ないと感じるとき、口臭が気になるときは、だ液の分泌を促すようにしてください。水を含んでグジュグジュとうがいをしてゴクンと飲みこむ、もしくは、歯磨き剤をつけずに歯ブラシだけで歯を磨きましょう。また、ガムをかむ、かんで丸めたガムを舌の上にポンと置いておくと、条件反射でだ液の分泌が促されます。口腔内の病気が原因の場合は、歯科でそれぞれの症状に合わせて治療やケアを受けましょう。内臓の病気が原因である場合、口の中を清潔にする、口臭ケアグッズを使用したところで、一瞬はごまかせても、においそのものをとり除くことはできません。」
「口の中では常に細菌が活動しているので、無臭になることはありません。本人あるいは第三者が不快と感じるかどうかです。『自分だけが、におう、くさいのでは!?』と思いこんでいる場合もあります。まずは、『口臭とは、自然な生理現象である』と考えて様子をみましょう。」
口臭は心身の状態を測るバロメーターのようです。においが気になるときはまず、その原因を考え、体調の具合を確認し、歯科医院を受診するようにしましょう。