行動・思考・記憶に影響を及ぼすアルツハイマー病に、世界で3000万人以上が悩まされています。その発症にはヘルペスウイルスの関与が疑われていますが、これとは別に、「歯周病菌」の関わりを主張する論文が学術誌・Science Advancesに掲載されました。
この論文は製薬会社・Cortexyme(コルテキシム)の共同創業者で精神科医のステファン・ドミニー氏や、大学院生としてアルツハイマー病を研究していたケイシー・リンチ氏らによって発表されたもの。
コルテキシムの研究チームはヨーロッパ、アメリカ、ニュージーランド、オーストラリアの研究所と協力して、死亡したアルツハイマー病患者の脳から歯周病菌ポルフィロモナス・ジンジバリス(P.ジンジバリス)が見つかるという従来からの報告内容を確認した上で、存命のアルツハイマー病患者の脊髄分泌液からP,ジンジバリスのDNAを発見しました。さらに、54例のアルツハイマー病患者の脳のうち96%からP.ジンジバリスの生み出す有毒酵素「ジンジパイン」が見つかりました。
より多くのジンジパインが見つかった脳では、アルツハイマー病と強い関連がみられるタンパク質「タウ」と「ユビキチン」が多量に存在していて、認知症傾向のみられない高齢者の脳でもジンジパイン・タウ・ユビキチンが少量見つかりました。このことから、リンチ氏はこの増加傾向を早めに掴むことで、アルツハイマー病の発症を予期できるのではないかと語っています。
実際にジンジパインがアルツハイマー病の発症に関連するのかを調べるため、研究チームは6週間の期間中、1日おきに健康なマウスの歯にP.ジンジバリスを塗布。すると、脳から、通常より高い水準のアミロイドβタンパク質とP.ジンジバリスが見つかりました。P.ジンジバリスの生み出すジンジパインがタウに損傷を与え、その損傷がアルツハイマー病患者でみられる「もつれ」の形成を促進しているのではないかと研究チームは考えています。
一方で、ジンジパインをターゲットとする抗生物質を投与することで、アミロイドβタンパク質の産出抑制と、その結果としての神経の変性を減少させることも確認されました。コルテキシムによれば、アルツハイマー病患者のうち、9人の認知能力に改善の兆候が見られたとのこと。
歯周病とアルツハイマー病の関連性を調べているコロンビア大学の神経内科医ジェームズ・ノーブル氏は、今回のコルテキシムによる研究が示したP.ジンジバリスの数が「これまでで最大」であり「明らかに包括的なアプローチです」と述べています。
一方、ハーバード大学付属マサチューセッツ総合病院のロバート・モイアー氏は、P.ジンジバリスがアミロイドβタンパク質の蓄積や神経変性に関与している可能性は高いと認めつつも、P.ジンジバリスやジンジパインがアルツハイマー病を引き起こす直接の原因であるという見方には懐疑的。実際、歯周病とアルツハイマー病の関連を調べる他の研究では、必ずしもアルツハイマー病の患者からP.ジンジバリス、およびジンジパインが見つかっているわけではないとのこと。
モイアー氏は、脳に蓄積されたアミロイドβタンパク質が脳細胞を死滅させるという「アミロイドβ仮説」に疑問を抱き、むしろアミロイドβはヘルペスウイルスから脳を守っているという新説を打ち出した人物です。
ヘルペスウイルスが原因なのか、P.ジンジバリスなのか、それともさらに他の要因があるのかはまだはっきりしませんが、ノーブル氏は「アルツハイマー病のリスクを軽減したいと考えるなら、とりあえずは歯磨きをすることです」とコメントしています。(インターネットニュースより)