咀嚼刺激の低下が記憶・学習機能を障害するメカニズム解明?!

東京医科歯科大学は、成長期における咀嚼刺激の低下が記憶を司る海馬の神経細胞に変化をもたらし、記憶・学習機能障害を引き起こすことを突き止めたと発表した。

 

同研究は、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科の中島友紀教授、小野卓史教授、福島由香乃研究員らの研究グループと、神戸大学医学研究科の和氣弘明教授との共同研究によるもので、同研究成果は、国際科学誌「Journal of Dental Research」に発表された。

加工食品などの柔らかく栄養価の高い食品が普及することによって、現代人の咀嚼回数は劇的に減少しているという。成長期に咀嚼回数が低下すると、顎の骨や噛むための筋肉(咀嚼筋)だけでなく脳の発達にも悪影響を及ぼすことが知られており、また、加齢に伴い歯を失うことによって咀嚼機能が低下すると、認知症のリスクが高まることも分かってきた。しかし、咀嚼機能と高次脳機能の関係には不明な点が多く残されており、記憶・学習機能をはじめとした脳機能の障害を予防するために、咀嚼機能と脳機能がどのように関係しているか、それらの分子メカニズムを解明することが重要な課題となっている。

行動実験(受動回避試験)。固形食を食べている正常のマウスを明箱に入れると、不安を感じるため即座に暗箱に入る。暗箱に入った際に電気ショックを与え恐怖を学習させると、それ以降マウスは暗箱に入るのを躊躇する。しかし、粉末食を食べて咀嚼刺激を低下させたマウスは、記憶力が低下して電気ショックの恐怖を忘れてしまい、通常より早く暗箱に入ってしまう。

同研究グループは、マウスに離乳期から成長期にかけて粉末飼料を与えることより、咀嚼刺激を低下させるモデルの解析を行った。その結果、粉末飼料を与えたマウスでは、通常の固形飼料を与えたマウス(対照群)と比べ、顎顔面の骨や噛むための筋肉の成長が抑制され、記憶・学習機能も顕著に障害されることが見いだされた。そこで、記憶・学習を司る脳領域である海馬を解析したところ、それらのマウスでは神経活動やシナプス形成、脳由来神経栄養因子(Brain derived neurotrophic factor: BDNF)の発現が低下し、神経細胞が減少していることが明らかとなった。

以上のことから、同研究では、成長期に咀嚼刺激が低下すると、顎骨や咀嚼筋の成長と記憶・学習機能が障害される可能性が見いだされた。同研究の成果は、記憶・学習機能障害や認知症の予防において咀嚼機能の維持または強化が有効であることを示唆している。将来、ヒトを対象とした研究を含め咀嚼機能と脳機能を結びつける分子メカニズムがさらに詳細に解明されることによって、認知症や記憶・学習機能障害の新たな治療法や予防法の確立につながることが期待されるということだ。(インターネットより)

*噛むことの重要性が科学的に証明されつつありますね!三嶋直之